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小規模証券会社管理職解雇賃金請求事件

事件の分類
解雇
事件名
小規模証券会社管理職解雇賃金請求事件
事件番号
東京地裁 − 平成20年(ワ)第5471号
当事者
原告 個人1名
被告 N証券株式会社
業種
金融・保険業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年01月30日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
原告は平成12年4月、A証券に入社し、営業職として平成19年5月20日まで勤務した後、被告の社長からの強い勧めもあって、同月21日、被告に期間の定めのない雇用契約により営業職の正社員として雇用された。原告の賃金は、毎月65万円、賞与は年2回各105万円とされたが、雇用契約書には、原告の業績や原告が就業規則や雇用解約に違反する行為をした等の理由によっては賞与を支給しない場合もあると規定されている外、原告の報酬額については、勤務態度や業績が著しく悪い場合には本件雇用契約締結後6ヶ月を経過した後に見直すことがあると定められていた。

 原告は、平成19年5月21日から同年9月3日まで被告に勤務していたが、この期間の原告の手数料収入は、6月63万8000円、7月41万2000円、8月11万4000円であり、役員などから「このままでは給料の見直しも考えざるを得ない」と言われるなどしたが、被告からノルマを示されたことはなかった。原告は、以前の勤務先であるA証券から、原告がA証券の顧客に対して行っている投資勧誘は退職時の誓約に違反するとしてその停止を求められるとともに、繰り返される場合には損害賠償請求の提訴の用意がある旨通告されたことから、営業活動に制約を受けることとなった。

原告は同年8月27日、役員から呼び出され、成績不振のため解雇の方向に話が進んでいることを告げられたが、原告は、せめて6ヶ月の実績を見て欲しいこと、社長と直接面談したいことを申し入れた。これに対し翌日役員から回答があり、給与を65万円から25万円に減額した上であと1ヶ月だけ猶予するか、解雇を受諾すること、社長は面談しないことが告げられたことから、原告は給与減額の上1ヶ月解雇猶予を選択したが、改めて試用期間残り3ヶ月について従来通りの待遇を求めた。被告は同年9月3日、原告の3ヶ月間の手数料収入は低く今後も改善の見込みがないなど、営業担当として資質に欠けるとして、就業規則19条2項にいう「試用期間中に不適と認められるときの解雇」として、原告を同日付で解雇した。

 これに対し原告は、営業成績の低迷は世界的規模で下落した当時の相場状況、就労期間が短く営業基盤が未整備であったこと、原告の前職のA証券との関係などによるもので、本件解雇は無効であることを前提に、平成19年11月1日以降の未払賃金月額65万円と、新たに就職したC証券で得ている月額60万円の差額及びC証券は賞与がないから平成20年夏以降毎期の賞与105万円並びに慰謝料250万円及び弁護士費用25万円を請求した。
主文
1 被告は原告に対し、金25万0846円及びこれに対する平成19年10月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2 被告は原告に対し、金33万5484円及びこれに対する平成19年11月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3 被告は原告に対し、金69万8250円及びこれに対する平成19年9月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4 被告は原告に対し、金69万8250円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5 被告は原告に対し、金165万円及びこれに対する平成19年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

7 訴訟費用は、これを3分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
8 この判決は、1項ないし3項及び5項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 解雇無効を理由とする地位確認及び賃金請求について

 解雇権留保の趣旨・目的は、企業が従業員の採用に当たっては、採用決定の当初の段階ではその者の資質、性格、能力等が当該企業の従業員としての適格性を有するかについての必要な調査を十分行えないために、後日における調査や観察に基づいて最終的な決定を留保することにあり、かかる趣旨に照らせば、留保解約権の行使については解雇については通常の解雇よりも広い範囲で認められてしかるべきではあるが、法が解雇に制限を加えている趣旨や企業が一般的に個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあること、試用者は、従来勤務していた企業を退職したばかりか、本採用を期待して他企業への就職の機会と可能性をも放棄している等の事情もまた存するのであるから、これらの事情に照らすと、留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認され得る場合に限り認められるとするのが相当である。

 なるほど平成19年5月21日から9月3日までの期間の原告の手数料収入は高いとはいえないが、僅か3ヶ月強の期間の手数料収入のみをもって原告の資質、性格、能力等が被告の従業員としての適格性を有しないとは到底認めることはできず、本件解雇(留保解約権の行使)は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することができない。

 被告は、原告の3ヶ月間の手数料収入の平均額が38万8000円で給与分にも相当せず、しかも月ごとに低下していることから、成績が改善される見込みがないと主張するが、これを裏付ける証拠は全く存しない。また被告は、証券営業を7年間経験してきた原告を即戦力として採用したのであるから、原告の資質能力を判断するには3ヶ月で十分である旨主張するが、何ゆえ3ヶ月なのかは明らかでないし、本件契約書における原告の試用期間を6ヶ月とする規定が置かれている上に、原告の勤務態度や目標に対する業績が著しく悪い場合には本件雇用契約締結後6ヶ月を経過した後に原告の報酬額を見直すことがあるとしているのであって、これらの規定によれば、被告も6ヶ月の試用期間が経過した時点で、従業員としての適格性が否定される場合には留保解約権の行使を行う趣旨であったと解されるのであり、被告の前記主張はにわかに採用し難い。

 以上のとおりであるから、本件解雇は客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することができず、無効である。してみれば、原告が被告に対して、平成19年10月分の賃金25万0846円及び同年10月16日から同月31日までの未払賃金33万5484円の支払いを求める請求には理由がある。

 更に原告は、平成19年11月1日以降、他社に就職して中間収入を得ているが、本件において原告は、本件解雇後、被告を相手方にして東京労働局に斡旋を申請し、金銭的な解決を求めていたこと、法令等で証券会社間の従業員の兼業は禁止されているところ、原告は同年11月1日、C証券会社に入社し、労働審判においても労働者足る地位の確認は求めず、金銭解決を求めていた等の事実が認められるのであって、これらの事実に照らせば、原告はC証券会社に入社した平成19年11月以降、本件解雇を承認したものと認められる。

2 不法行為に基づく損害賠償請求について

 原告は、被告の社長らの勧誘に応じてA証券を退社して被告に入社したにも拘わらず、試用期間の満了を待つことなく僅か3ヶ月ほどで成績不振を理由に解雇されるに至っているのであって、本件解雇に至る被告の対応は性急に過ぎ、本件解雇は無効かつ違法なものといわざるを得ない上に、原告は突然の解雇により顧客の信頼も少なからず損なわせたものと認められるから、これらの事実に照らせば、原告の被った精神的苦痛を慰謝するには150万円とするのが相当である。また、弁護士費用相当額の損害は15万円である。

3 平成19年6月の賞与請求について

 原告は、被告との間で、平成19年6月末に賞与として105万円支払う旨の合意があったと主張するが、これを裏付けるに足りる証拠はないし、かえって、原告作成の「あっせん申請書補足」によれば、原告自身も「私も入社したばかりであるから期待はしていなかった」としているのであって、この記述に照らせば、原告と被告との間には、平成19年6月末に賞与として105万円を支払う旨の合意はなかったものと認められる。

4 時間外・深夜・休日手当請求及び付加金の請求について

 1日の労働時間は8時間、平成19年度の労働日が245日であるから、年間総労働時間は1960時間となる。賞与については雇用契約書上増額ないし不支給の場合があるとされており、本件賞与は支給が確定したものとはいえないから、これを除外した780万円を年間給与総額として労働時間1960時間で除すと、1時間当たりの賃金額は3979円59銭となる。原告の時間外労働時間は140時間10分(このうち1時間は深夜時間)の限度で認めることができるところ、1時間当たりの時間外手当は4974円48銭(3979円59銭×1.25)、深夜手当は994円89銭(3979円59銭×0.25)となるから、時間外手当は69万7256円、深夜手当は994円の限度で認めることができる。

 なお、被告は原告は課長職にあり、管理監督者(労基法41条1項2号)に当たると主張するが、管理監督者とは労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいうと解されているところ、原告には人事や経営に関する権限があったとは認めることができないし、部下の人事考課権を有していたとの事情も認めることができず、その職務内容、権限、責任等に照らすと、原告については労務管理について経営者と一体的立場にある者であったとは認めることができない。

 更に被告は、給与規定では月30時間を超えて時間外労働をした者について時間外手当を支給することとし、月30時間を超えない時間外労働に対する部分は基準内賃金に含まれているとし、原告の月65万円の給与は高額であり、時間外手当等が給与に含まれているとしても不当ではないと主張する。しかしながら、割増賃金を基準内賃金に含まれるとすると、通常の労働時間に対する賃金部分と割増賃金部分との比較対照が困難であり、労働基準法所定の割増賃金額以上の支払があるのかどうかの判断が不可能であるため、労働基準法37条の規制を潜脱するものとして違法であると一般的に解されているところであり、また判例も、基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されていて、かつ、労働基準法所定の算定方法による額がその額を上回るときはその差額を支払うこととされている場合にのみかかる支払方法は適法とされているのである。本件においては、原告の基準内賃金のうち割増賃金に当たる金額がいくらであるのか明確に区分されているとは認められないから、被告の前記主張は採用することができない。

 以上のとおり、被告は原告に対し、時間外手当として69万8250円を支払うべき義務を負っているところ、被告はなお労働基準法37条に違反しこの義務を履行していないから、同法114条に基づき、69万8250円の付加金を課すのが相当である。
適用法規・条文
労働基準法37条1項、41条1項、114条1項、民法709条労働契約法16条
収録文献(出典)
労働判例980号18頁
その他特記事項
本件は控訴された。

 ・法律  労働基準法、民法

 ・キーワード  慰謝料

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