専門家コラム

就業規則等で女性の健康に関する規定を整備する際のポイントや留意点
 女性の健康は、妊娠や出産、月経や更年期障害など就業期間を通して何らかの影響を受けやすく、個人差やデリケートな面もあるため、就業規則等への規定にあたっては、その点を踏まえた配慮が必要です。 厚生労働省のモデル就業規則や各種パンフレット、各都道府県労働局のウェブサイト等を参考にしながら、以下のポイントにも留意してください。

<母性保護>
(産前・産後休業、妊婦の軽易業務転換、危険有害業務の就業制限、生理休暇など)

 産前・産後休業:「通算して14週間」と定めている企業がありますが、出産が予定日後の場合で産前休業が6週間を超えても、産後休業は8週間確保する必要があります。通算してしまうと産前と産後の休業期間が分かりにくいため、分けて規定すると良いでしょう。また、産前休業は本人が請求した場合に、 産後休業は請求がなくても就業させることはできない(産後6週間を経過し本人が請求した場合で医師が支障ないと認めた業務を除く)ことも併せて規定しておくべきです。

 危険有害業務の就業制限:従事する業務ごとに法令で制限内容が定められていますが、重量物を扱う業務など、妊産婦(※)に限らず全ての女性に就業が制限される業務もあるので注意が必要です。
<母性健康管理>
(妊産婦の健康診査等に必要な時間の確保、妊娠中の通勤緩和や休憩に関する措置など)

 通勤緩和等:医師等の指導がない場合でも柔軟な対応が求められますが、本人の申出を無条件に受け入れるのではなく、例えば、申出により原則30分ずつの早退と遅刻は認めるが、まとめて60分取得する場合は事前の届出を求める等、一定の基準を設けておくと良いと思います。 なお、新型コロナウイルス感染症への感染のおそれに関する心理的なストレスについても母性健康管理措置が義務づけられています。新型コロナウイルス感染症に関する措置(令和2年5月7日〜令和5年9月30日まで)
<育児・介護休業等>

 育児・介護休業:有期契約従業員の場合、休業取得の要件(子が1歳6か月になるまでに「労働契約(更新される場合は更新後のもの)が満了することが明らかでないこと」)があるため、有期契約従業員が対象となる就業規則に当該要件を規定する必要があります。

 子の看護休暇、介護休暇:2021年1月より、原則として全ての従業員(日雇の従業員等を除く)が時間単位での取得も可能となりますので改定が必要です。

 育児短時間勤務:1日6時間の勤務時間を含めることが必要です。その上で他の時間を設定し選択肢を増やすことは可能です。
<ハラスメント>

 パワハラ、セクハラ、マタハラ等:ハラスメントの内容やハラスメント防止の方針を明確化し、また、ハラスメント行為者に対する懲戒等について就業規則等の文書に規定し、従業員に周知、啓発することが義務づけられています。ハラスメント防止規程など就業規則の本則以外に定める場合は本則にその旨の委任規定を定めることが必要で、相談窓口など解決のための対応についても明記しておくべきです。
<不妊や女性特有の疾病などの治療、その他(法を上回る制度)>

 不妊治療等:例えば「不妊治療休暇」など取得事由を特定した制度のほか、様々な事由で取得できる休暇(「傷病休暇」や「年次有給休暇の積立休暇」など)の取得事由の一つにすることも考えられます。
 母性保護を含めた女性の保護や母性健康管理に関する規定については、雇用形態にかかわらず全ての女性が対象となるため、パートタイム労働者就業規則など本則とは別の規程が作成されている場合には 各々に規定しておくことが必要です。また、女性にとって、妊娠、出産、育児は一連のライフイベントですので、就業規則への規定のほかに制度等を時系列にした一覧表などで周知すると分かりやすいと思います。
 就業規則等への規定後も、法改正に伴う改定が必要ですし、実効性の確保のため職場の実態に合わせた見直しが重要です。従業員アンケートや意見交換会の実施のほか、プロジェクトチームで検討するなど定期的に整備していくと良いでしょう。

※「妊産婦」:妊娠中及び産後1年を経過しない女性

(2020年10月) 

                                                        
梅本公子先生

著者:梅本公子先生
特定社会保険労務士
梅本社会保険労務士事務所代表