専門家コラム

睡眠とストレスの関係

近年注目されている「睡眠」ですが、健康の要としてよく言われている「睡眠、食事、運動」の中でもストレスとの関係が深いものです。 食事や運動は自分の意志である程度コントロールができますが、「眠る」という行動はなかなか自分の思うようにならないものです。



ストレスと聞くと職場の人間関係、仕事の忙しさなどを思い浮かべることが多いと思いますが、「満足に眠れない」ことも大きなストレスとなります。 世界的にみても日本は睡眠不足な国です。厚生労働省の調査によると21.7%の人が「睡眠が十分にとれていない」と答えていて増加傾向にあります。では、十分な睡眠時間とは何時間なのかというと、これは年齢によっても違うし 個人差がありますが、だいたい6~8時間と言われています。そんな中、日本では1日の平均睡眠時間が6時間以下という人が約40%もいます。ある女性雑誌のアンケートではストレス解消法のトップ2が「食べる」「寝る」で、 それぞれ半数以上となっています。睡眠がストレスの原因にもなり解消法でもあるのです。では、ストレスが睡眠に与える影響とはどのようなものがあるでしょうか。

1.ストレスと自律神経

自律神経失調症という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、これは自律神経のバランスが乱れてしまい心身に様々な症状が出る状態をいいます。 自律神経には交感神経と副交感神経があり、意識しなくても勝手に24時間からだのあちこちで働き続けてくれています。交感神経が優位になるとある種の興奮状態となり眠気も覚め活動モードになります。副交感神経が優位になるとリラックス状態となり眠気が生じ休息モードになります。 つまり日中は交感神経が優位になり夕方から夜にかけて副交感神経が徐々に優位になってきます。このリズムがストレスによって乱されてしまうと、夜になっても交感神経が刺激されて優位になってしまいます。脳は興奮状態になり活動モードのままなので休息できなくなるのです。 たとえ眠れたとしても深い眠り(ノンレム睡眠)が十分でなく浅い眠り(レム睡眠)が多くなり、夜中に何度も目が覚める、睡眠時間は確保しているのに寝た気がしないという状態になります。

2.睡眠中に脳で行われていること

なぜ人は人生の3分の1も眠るのか?まだ謎は多い睡眠ですが、心身の健康に大きな影響を及ぼすことは知られています。睡眠は脳と体に休息を与えると言われていますが、脳は省エネモードにはなっていますが休んではいません。 外部情報が入ってこないように視覚も聴覚も遮断した中で、起きている間に入ってきた情報を整理し、分類しているのです。そして、自分に必要な情報だけ選択して記憶として保存し、不要なものや嫌なものは消去します。この整理・分類、保存・消去が行われるからこそ、 知識が固定したりストレスが取り除かれたりするのです。十分に眠れないということはこの作業がうまくいかないので知識の定着がうまくいかずミスを繰り返したり、嫌なことがいつまでも頭から離れず辛くなったりしてしまいます。不眠がうつ病の人に多く見られる症状であり、 不眠はうつ病を悪化させてしまうのはこういった背景があるからです。また、ノンレム睡眠中には、アルツハイマー型認知症の発生要因の1つであるアミロイドベータの除去も活発に行われています。脳の老廃物は起きている間の神経細胞が活発な時にたまります。起きている間も老廃物の除去は行われていますが、 ノンレム睡眠中には起きている間の倍量の除去が行われていると言われています。ほかにも入眠直後のノンレム睡眠中は代謝を促す成長ホルモンの分泌が際立って多くなることが知られています。成長ホルモンは女性ホルモンの分泌が減ってきた女性にとってはそれに代わる働きもするのでアンチエイジング効果もあり、ありがたいものです。 免疫も睡眠と深い関係にあり、インフルエンザのワクチン接種でも睡眠が乱れていると免疫の確立がうまくできないという報告もあるようなので睡眠を整えてワクチンの効果を十分に発揮できるようにしたいものです。

余談ですが「金縛り」も睡眠を妨げストレスとなります。霊の仕業だ等、怖い思いをする方もいるようですが、実は睡眠障害の1つで、入眠時にノンレム睡眠ではなくいきなりレム睡眠から入ると起こりやすくなる現象です。体は眠っているのに脳は起きている状態です。自分では起きているつもりですが現実感のある夢を見ているので現実と夢が混在して、 何かが見えたとか、触られたとか、聞こえた等感じてしまうようです。原因としては睡眠不足、不規則な生活や過労によるリズムの乱れ、ストレスが考えられます。解消するには「じっと待つ」のが基本ですが呼吸を整えて力を抜く、指や足先を少しでも動かして脳に体は起きていると認識させて覚醒するなどがあります。金縛りにあわなくするためにも生活リズムを整えて、 良い睡眠をとるように心がけましょう。

伊藤厚子先生

著者:伊藤厚子先生
臨床心理士
メンタルサポート・アレーズ代表
東京理科大学 学生相談室専門相談員